日本はかつて、自然と共に暮らしていた時代がありました。自然や神を畏れ敬い、月の満ち欠けの周期と二十四節気に沿って、農事が行われていました。これは素晴らしい日本の知恵です。
旬の時期よりも早く出荷して、高く売ることが目的であれば、月の満ち欠けや節気を取り入れている場合ではないでしょうが、小さな農のある暮らしを楽しむのであれば、この自然のリズムに沿った農作業による違いを実感してみてはいかがでしょうか。
太陰暦
太陰暦は、月の満ち欠けを基準として1ヶ月を定める暦です。新月を含む日を1日とし、1ヶ月の周期は約29.5日で、朔(さく=新月)→上弦→望(ぼう=満月)→下弦→朔と見かけが変化します。1日は月が立つので「一日(ついたち)」、三日月は3日目の月、15日目あたりが満月なので十五夜です。この周期に沿って、種まきの時期や苗の定植時期を決めます。
種まきは満月
種まきは、上弦の月から満月までに蒔きます。満月の時は太陽、地球、月の順に並ぶので、太陽の引力と月の引力が両側から引っ張られる形になります。結果として引力が弱い状態で、発芽した芽が引っ張られることなく、地中に根をしっかり張り、ガッチリとした苗になります。
苗の定植は新月
逆に、苗の植え付けは、下弦の月から新月までに行います。新月の時は太陽、月、地球の順に並び、月と太陽の引力に地球の大地が引っ張られる状態です。苗も上に引っ張られてよく育つのです。下弦の時に移植すれば多収となり、上弦の時に移植すれば収量が少ないと江戸時代から言われています。
二十四節気
二十四節気は、地球が太陽の周りを1周する1年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けたものです。季節の始まりを表す四立(立春・立夏・立秋・立冬)や、二至二分(冬至・夏至・春分・秋分)など、24の節気で季節の変化を知らせてくれます。
土づくりは土用を避けた方がよい
土用は二十四節気の雑節で、「土用の丑の日は鰻」の夏の土用だけでなく、年に4回土用があります。四立(立春・立夏・立秋・立冬)の前の約18日間で、この期間は、土の気が盛んになるとして、土を動かすこと・穴掘り等の作業をしてはいけないといわれています。農作業では土づくりや草むしり、建築作業では基礎工事や井戸掘りなどが禁忌にあたります。現代でも、基礎工事などは土用を避けて行われています。
天体の動きは気にしていても土の神様にまでは思いが至らず、全く気にしていなかったのですが、ある時、たまたま春の土用の期間中に土づくりを行ったところ、その翌日、参加者全員が体調不良を訴えたのです。暑かったので熱中症かと思ったのですが、「土用中じゃないか」と指摘を受け、以来、気にするようになりました。
実際のところ、その作業日は、たまたま土用の間日(土用中でもこの日だけは作業を行ってもいい日)だったのですが、参加者の具合が悪くなったのは事実です。土用の期間中は季節の変わり目で体調を崩しやすい時期でもあり、手作業での土づくりは、ずっと下を向いて頭を下げた状態での作業が続くので、なるほど理にかなっているな、と思いました。
バイオダイナミック農法
天体の動きを取り入れた農法といえば、世界的に有名な、ルドルフ・シュタイナーが提唱した「バイオダイナミック農法」があります。化学肥料や農薬を使わず、動物との共生を重視し、太陽の動きや月の満ち欠けなど天体と地球と植物のリズムに合わせて作物を栽培する農法です。
9種の調合剤を用いた独特な土づくりは、牛や鹿の角・膀胱・腸や水晶など、集めるだけでも日本人にはダイナミック過ぎる農法ですが、「すべてはエネルギーの循環」であるという観点は、全くその通りだと思います。
太陽が放出する光エネルギー、月の引力と水の関係、磁場など、宇宙全体の天体のマクロから、土中の微生物のミクロに至るすべてのエネルギーの、絶妙なバランスによって自然の営みは粛々と進んでいるのでしょう。私たち人間も当然その自然エネルギーのバランスに含まれているわけですから、興味がわく範囲、いいタイミングがあれば、天体の動きに合わせるとどうなるのか、是非、試しみてくださいね。
以上です。