25㎡の農園ができるまで
「田舎に移住して自給自足の生活がしたい!」はじめにそう思ったのは、2010年頃。きっかけはブロッコリーでした。
東京で会社員をしていた私は、オーガニックショップで1個500円のブロッコリーを手に取り、「いったいいつまで、こんな高い野菜が買えるのだろう……」と、急に不安になりました。「いや、続かない。いつかは破綻する。そうだ、自分で作ろう!」と思い立ったのです。
野菜を作るなら田舎に行かなきゃです。移住先の田舎を求めて長野や富山の各所を休みのたびに訪ね歩き、移住ツアーにも参加し、各地の農家さんと知り合いになっては、農作業をお手伝いしていました。
埼玉では有機農家のコミュニティが主催する「畑の学校」にも通い、畑も借りたり、練馬区内の農家さんの援農をしていたこともあるのですが、知れば知るほど、農作業は大変で「私にはどう考えたって無理」という気持ちがどんどん募っていったのです。
そんななか「パーマカルチャー」という概念を知り、安曇野で臼井健二さんが主宰する「パーマカルチャー塾」に月1で通うことになりました。2016年4月のことです。
『わら1本の革命』で、私にも革命が起きた
そこで初めて知ったのが「自然農法」。福岡正信の『わら1本の革命』です。ノコギリ鎌1本あれば農業はできる!って考えで、「まさに、これだ!」です。ついに私は、自分が求めていた自然とのつきあい方を見つけたのです。
そうなると今すぐ、自然農法を一から試してみたくてたまりません。
「ノコギリ鎌1本で野菜を作りたい!」に向かって、全身全霊、全球入魂。もう、移住先を探してる場合じゃないので、思いつくまま安曇野と東京の中間地点「長野県富士見町」に畑を借り、ワンボックスの軽自動車も入手しました。週末は、車中泊で自然農三昧の計画です。
わずか1ヶ月でここまで一気に駆け抜けましたが、ここで突然、東京都区内で庭付き賃貸住宅に出会ってしまったのです。もうこれは地球からの贈り物。田舎でも都会でも、土さえあればどこだっていい! 移住計画は一気にUターンして、都内での引越しとなりました。
新居の庭はもちろん農地ではなく、単なる宅地の庭です。でも、畑じゃない方がかえっていろいろ都合がいいのです。
田舎で無農薬を実践されている人からよく聞く悩みは、「隣の畑がジャンジャン化成肥料を使っている」、「上流部から市販のシャンプーの匂いが水路に流れてくる」、「地主がドローンにハマって農薬散布に精を出す」、「畑のそばにデッカイ送電塔ができて、電磁波が心配」などなど。実は田舎には都会にはない悩みが、たくさんあるのです。原発なんて最たるものですよね。
人がみっしり暮らす東京の方が、農薬散布の心配や生活排水で汚染される心配もなく、排気ガスも幹線道路沿いに面していなければ、気にするほどではないと思います。田舎の農地は、軽トラがガンガン田畑の中を通りますから。
耕せばどこでも畑になる
最初、新居の庭はカチコチでした。長年、古家の下に踏み固められていたので、雨が降るとプールのように見事に水がたまりました。これは、まずいかな? ちょっと不安になりました。ネットで調べてみると、そんな場合には「暗渠排水システム」を設置する、という途方もないアドバイスが……。またまた、人間社会の難しいシステムに引きずり込まれてしまいます。
そんなお金はないので却下。私にできることはただ一つ。カチコチの地面の土を、人力でほぐすことだけです。
耕す段階ではありません。カチコチで死んだような土をスコップでほじって、土に混じり込んだ瓦礫や石をまずは撤去です。そして石かと思ったら土の塊だったってくらい固くなった土をほぐし、腐葉土と籾殻くん炭をすき込んで空気を含ませる。ひたすらその繰り返しです。
東京のアスファルトの下は、どこもこんな感じなのでしょうか。でも、土は汚染されることもなく、長年古家の床下に守られて、眠っていただけだったのです。土に空気が通り、太陽の光があたって、雨水が降り注ぐと、みるみる元気になりました。自然の力は本当にすごい。人が下手なことをするより、自然がちゃんと良きに計らってくれるのですね。
宅地のカチコチの庭は、あっという間に食べられる庭「エディブルガーデン」に変わりました。
自家用であれば野菜作りの場所はどこでもよく、太陽と土と水と空気、この4つの元素さえあればOKで、6畳もあれば4人家族が自給できる野菜を作ることができるのです。遠くの農地よりも、家の前の畳一枚分の庭で簡単にできることだったのです。
エディブルガーデンから小さな森「FARM25」へ
あれから6年の歳月が経ちました。この土地の春夏秋冬を、6回経験したことになります。たった6年ですが、年々暑さが厳しくなる東京では、この6年間で、種まきの適期や、野菜の開花期が徐々に前倒しになり、1ヶ月くらい早まりました。そして夏よりも冬の方が、野菜が育ちやすくなりました。
これからも夏に野菜が育てられるのだろうか? ちょっと不安になりますが、人間以外の面々は、そんなことは全く気にもとめずに、せっせと生まれて育って種を落とし朽ちていくのです。
足元ではアリが忙しく動き回り、蜂は邪魔だと言わんばかりにブンブン唸って、花弁に顔をつっこんでいます。生き物すべてが共存・共生し合う自然の姿は、毎日、ただ黙々と変化し続けています。エディブルガーデンは、もはや私の手など必要としない「小さな森」として自然に循環しはじめています。
長ネギはエンドレスで、身体を分け与えてくれます。春や秋になると、こぼれ種子から発芽したルッコラや菜葉、大葉や三つ葉、パセリなどが勝手に育ちます。その間を縫うように、春はトマトや胡瓜の苗を植え、秋はブロッコリーやカリフラワーの苗を植えつけます。
人間は、なるべく邪魔をしないよう、余計なことはしないように気をつけるのが、一番大切なことのようです。
小さな小さな森が、東京に少しずつでも増えていって。緑の点と点がつながってグリーンベルトになり、グリーンインフラの一貫として広がっていったらすごいなぁ。グレーインフラで埋め尽くされた東京の暑さ、息苦しさが、思ったより早く解消できるんじゃないかと思うのです。